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風に嫁いだ娘 前編

.11 2010 未分類 comment(0) trackback(0)



昔、高い高い山の上にぽつんと小さな里があった。

里はその国で一番高いところにあったので、里の下に広がる海も野山も川も、それは素晴らしい眺めだった。

その里には一人の若い娘がいて、よく働き、年老いた両親の世話をし、真面目で優しい娘だった。

里の若者は皆、下方に広がる裾野の村や町や大きな海に憧れて、成人すると次々に里を離れていって戻っては来なかった。

そんな他の若者の背を見送りながら、娘は『自分だけでも、ここで親の世話をしなければ』と来る日も来る日も仕事に精を出した。



年老いた両親は、娘の優しい心に助けられているものの、嫁にも行かず、誰かとの結婚話も出さないで働き続ける姿を不憫に思っていた。

両親はある晩に、娘に思い切って訊ねてみた。

『お前はずっと良くしてくれている。でもね、お前がここで私らの世話をしているから、嫁にも行きたいだろうに辛くないかと心配しているんだよ。』

すると娘は笑って答えた。

『何を言っているの。私は好きでここにいるんです。私は好きな人もいないし、

それにこの里から離れてしまったら、お父さんにもお母さんにも会えないじゃないの。』

両親は、そんな娘の明るく笑う顔にそれ以上何も言えず、何とも申し訳ないような、重い気持ちでうなずくしか出来なかった。




こうしてまた月日は流れ、秋も終わりになるある日のこと。

北風が吹いてきたら冬が始まるので、早くに吹く北風は長い冬、遅くに吹く北風は短い冬、と里の者は毎年気にしていた。

里に吹く北風はその年は遅く、どうやら冬は短そうだと皆で噂していた頃。


空の上では、風の神が北風に乗ってそろそろ高い山の頂にある里を跳び越そうとしていた。

毎年ここを訪れる度、風の神は見ていたものがあった。

それはあの働き者娘の姿だった。

特別に器量が良いというのでもないが、いつも朗らかに笑っていて、文句一つ言わずにせっせと皆の分まで働く姿に、ついつい見入ってしまうのだった。

今年もまた里に近づく頃、あの娘を思い出して一つ考えていることがあった。

風の神は、うーん、と唸って、よし決めた、と一気に里へ降りて行った。




その頃、里で大根を干している最中だった娘が一人。他の者は皆、年寄りばかりで家に入っていた。

娘は突然背中から吹いて来た冷たい風に肩をすくめた。

「ああ、寒い。ようやくもう冬が来たのね」 そう独り言を言って空を仰ぐと・・・

娘は腰を抜かすほど驚いた。そこには見たこともない出で立ちに身を包んだ、それは大きな逞しい男が立っていた。

びっくりした娘の声に、何事かと家の外に出てきた他の者も皆、一様に驚きの声をあげた。

男はからからと笑い、「何、それほど驚くこともあるまい」とよく響く澄んだ声で静かに言った。


透き通った水色の体に金や銀の刺繍で模様づけられた衣をまとい、手には大きな朱の杖を持ち、背中にはためく薄衣をかけている。

里の翁が恐る恐る前へ歩み出て、「一体、あなたはどこの方でしょうか?」と震える声で訊ねてみた。

男は翁を見やり「俺は風の神。この里に北風を吹かして冬を招き、南風を吹かして春を呼ぶ者だ」と答えた。

皆がざわめく中、翁は続けて訊ねた。「では、その風の神が、こんな辺境の里にわざわざ降り立つとは一体何事でしょう?」

男はにやりと笑い、娘を見た。娘は心臓を掴まれたように動けなくなったが、不思議と風の神に怖れはなかった。

「俺が今日ここへ来たのは他でもない用事。ここにいるあの娘を嫁にもらおうとやって来たのだ」



風の神に嫁ぐのか、と皆が口々にささやき始めた。

娘は突然の出来事に呆気に取られ、しばらく口をぽかんと開けたまま男を見つめていた。

しかし、はっと我に返り、頭を振ってこう言った。

「いえいえ、いけません! 私はここを離れるわけにはいかないのです。この里には私以外に働き手がおりません。

あなた様の申し出は受けるわけにはいかないのです」

娘の言葉に一同、静まり返った。娘は常に心にあったことを大きな声で叫んだ後、ああ、しまった、言うのではなかった、と悲しくなった。

静まり返った年寄り達の顔に悲しそうなものが浮かんだ。

娘が下を向いて言葉を探していると、一人、娘の肩に手を置いた者がいた。それは娘の父だった。


娘が父に振り向くと、にっこり微笑んだ父は娘に言った。

「私たちはお前が幸せになってほしい、と常日頃から祈っていた。私たちの幸せは、お前が自分の幸せを生きてくれることなんだよ」

母や親戚、近所の老人達も皆、父の言葉にうなずいて、涙を流している者もあれば、微笑んで見つめるものもあり。

これを見ていた風の神はしばらくじっと黙っていたが、頭を掻いて娘に向かって提案した。

「どうやらお前が喜んで嫁に来るというのは、俺の早とちりだったかもしれん。今夜一晩、よく考えて、明日までに答えを出してくれ」

そう言うと、風の神は「明日また来よう」と、風にひらりと乗って空の高みへ飛んでいった。


突然の縁談に、娘は面食らうも戸惑いながら、運命の決断を迫られて一人静かに考え込んだ。

その晩は両親と食事をしていても話が出てこない。

両親もまた、何かを言おうとしては口をつぐんだ。

娘は溜息を一つ漏らすと、面を上げて、決心した。「私、お嫁に行こうと思います。心配は沢山あるけれど、それが一番良いと考えました」

両親は娘の決意を聞いて、「では今夜のうちに支度をしないとね」と喜んでくれた。


そして翌日、晴天の下。 

高い山の里で皆の送り出す中、娘はお別れを言いながら風の神の後ろにちょこんと乗って、風の馬に乗って嫁入りをした。




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